伝統を守り革新を続ける大川家具。未来につなぐ次世代へのバトン
室町時代から脈々と受け継がれてきた家具職人たちの技術。
歴史ある家具の街、大川市には今もその伝統や文化がしっかりと根付いています。今回は、大川家具の人気を牽引してきた家具メーカー広松木工株式会社のショールームを訪問し、広松木工株式会社の社長廣松嘉明さんや職人のみなさんにおはなしをお聞きしました。
“人を幸せにする家具作り”を
未来へとつなげるための取り組み
——まずは社長の廣松さんに、広松木工についておはなしをお聞きしたいと思います。広松木工の歴史と家具を作る上で大切にしていることを教えてください。
廣松 広松木工は今から72年前に、私の父が創業しました。その当時は、父と母と職人の3人だけの小さな会社で、木製の事務机だけを作っていたそうです。46年前に広松木工を継いだ当時、大川の家具メーカーのほとんどが、机は机、食器棚は食器棚と何かに特化して家具を作っていて、家具全般をトータルでつくる会社はほとんどありませんでした。
でもそれではつまらないなと感じていたので、自分が作りたいもの、好きなものを作ろうと思い、外部のデザイナーに依頼して、広松木工オリジナルの商品作りを始めました。これも当時はとても珍しい取り組みでしたね。よりオリジリティの高いものを作るためには、自分たちの頭だけでは限界がありますから、プロの力をお借りしてオリジナリティの高い商品を一緒に作ってきました。
——「広松木工」というブランドを築く上で、大切にしていることは何ですか?
廣松 ブランドとは信頼性と認知度だと思っています。名前を作ったからブランドではなく、長年培ってきた結果として、信頼できる会社になってきたとすれば、ブランドが徐々にできてきたんだなって。
私たちが本当に大切にしているのは、ファンづくりですね。「こういう家具が売れそうだから」という基準で考えるのではなく、自分たちが良いと思う家具を作っています。自分たちの世界観、自分たちの好きな商品を作って、それに共鳴してくれる人をどれだけ増やしていけるかを一番大切にしています。
——広松木工には、若い職人さんが毎年ご入社されていると聞きました。次世代を担う職人を育てるために、どのような取り組みをされているのでしょうか?
廣松 毎年、志を持ってうちに来てくれた若手職人たちに、自分で考えてデザインした家具を自分で作る社内コンペを開催しています。このコンペから実際に商品化して、広松木工を代表する家具になっているものもあります。このコンペという仕組みがとてもうまく機能していて、若手職人たちのモチベーションにもつながっているし、しっかりと技術も継承されています。
ものづくりに魅了され、 家具職人を目指す若者たち
——家具職人として働くなかで、どのようなところに広松木工の魅力を感じていますか?
今村 木目や節目を見て使う部分をレイアウトする木取りは、誰でもできる作業ではなく経験やセンスが必要です。広松木工には、木取の技術に長けた素晴らしい先輩たちがいます。その職人技を間近で見ながら、自分自身で試行錯誤を繰り返し、家具作りに取り組めることはとても楽しいです。職人としてとても恵まれた環境に身を置いているんだなと感じます。
吉住 入社してから家具を作るのが毎日とても楽しいですね。先輩方はいつも広松木工に伝わる技術や伝統を丁寧に教えてくださるので、職人としてのスキルや心構えが身につきました。学生時代に初めて広松木工のショールームを訪れて、その世界観に心を奪われたんですが、働いてみて改めてクオリティーの高さやお客様に長く愛される理由がわかりました。
——先ほど廣松社長から、先輩職人が若手をサポートする体制についてのおはなしをお聞きました。お二人は普段どのように若い世代のサポートをされているのでしょうか?
中村 私が現場で働いていた頃、先輩方から技術的はもちろん、コミュニケーションの取り方も教わりました。「家具は一人で作るものではないから、前後の工程や関わる人との関係性などもとても大切。それを疎かにすると質の高い良い家具はできないんだよ」と。人間的にしっかりとした考えを持つことは物づくりにも繋がっているので、家具を作るために必要なことをトータル的に伝えるように心がけています。
北 職人たちは、夏は暑くて冬は寒い環境で、刃物や機械など危険な道具を使いながら命がけで家具を作っています。だから私たち営業は、商品の値引きを絶対にしません。広松木工の世界観や雰囲気を大切に、一つ一つの家具を丁寧にお客様に届けてくださるお店を中心に販路を築くことで、家具の価値や職人の想いを守っています。
——今まで携わった商品の中で思い入れのある家具を教えてください。
吉住 「SHAKERオーバルボックス」を作るが大好きです。スワロウテイルと呼ばれる燕尾形にスライスした木部を曲げる作業は、ひとつひとつ手作業で行っています。木の特性やクセを見極めながら、すべて同じ見た目になるように仕上げていきます。小物は、手にとって裏までじっくり見ることができるため、細部まで美しさを宿せるように心を込めて作っています。
今村 入社して初めて作ったのが、「GALA サークルテーブル」です。まず天板を「うづくり」と言ってバレンをかける作業をし、そのあと天板を集成して、丸めます。このテーブルは、2つの板を45度ずつ止めて、90度にして脚を作るんですが、少しでもブレたりどちらかの板が中に入ったりすると、仕上げるときにガタつきや不具合が生じてしまいます。上手くできるようになるまで、何度も失敗を重ねた思い入れの強い商品ですね。
——お二人のこれからの目標を教えてください。
今村 家具を作る速度を上げていきたいなと思っています。しかし、クオリティーは絶対に落とさない、これが僕自身の最大の目標ですね。
吉住 私の目標は、妥協しないの一言ですね。加工や組み立ては、直接お客様の目に触れる工程ではないんですが、広松の家具の質を高められるように、これからも妥協せずに頑張っていきたいと思っています。
廣松 我々が若い頃は、この業界は「きつい、汚い、危険」の3Kの極みと言われていました。でも今は時代が変わり、ものを作り出せる、手に技を持つということに価値を見出してくれている若者が増えています。これはとても嬉しいことですね。家具を購入いただいた方に喜んでもらい、そのご家庭のみなさんに幸せな気持ちで生活してもらいたいとの想いは、広松木工を継いだときから今も変わりません。若い職人の力とともに、これからも人を幸せにする家具作りに取り組んでいきたいと思います。